【週末エンタメ】『ニュー・シネマ・パラダイス』など300作以上を手掛けた映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの偉大なる足跡
身を委ねたくなるような美しい楽曲を数多く世に送り出した映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネ。2020年に91歳でこの世を去った彼の半生に、モリコーネ自身をはじめ、多くの関係者のインタビューから迫っていくドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』が2023年1月13日(金)より公開されている。
生涯を通じて300本以上もの作品を担当し、数々の名作を雄大な音楽で支えてきたモリコーネ。ここでは代表作での仕事ぶりを振り返っていきたい。
クラシック音楽家をも唸らせた、セルジオ・レオーネとの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』
さまざまなインタビューや名曲の数々からモリコーネの生涯に迫っていく
(C) 2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
1928年にイタリア・ローマに生まれ、音楽家だった父の意向でサンタ・チェチーリア音楽院に入学し作曲を学ぶと、クラシックではなく映画音楽の道へと進み、50年代から他の作曲家のサポートをしていたモリコーネ。
1961年にルチアーノ・サルチェ監督の『ファシスト』で正式に映画音楽を手がけ、同時期に隆盛を極めていたマカロニ・ウェスタンを手がけるようになっていく。そんな中、同ジャンルを確立した巨匠セルジオ・レオーネ監督と多くのタッグを組むことになる。
『荒野の用心棒』など多くのレオーネ作品で主演を務めたイーストウッド (C) 2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
『荒野の用心棒』(1964年)では、主演のクリント・イーストウッドに「当時あれほどオペラ的な西部劇の曲はなかった」とまで言わしめた独創的な曲調に、ムチや鐘の音、口笛などを組み合わせた独自のサウンドを構築し、西部劇のイメージを一新した。
『夕陽のガンマン』(1965年)、『続・夕陽のガンマン』(1966年)、『ウエスタン』(1968年)といったレオーネ作品で、一度は耳にしたことがあるようなアイコニックな楽曲を連発。『ウエスタン』などの一部の作品では、レオーネがモリコーネの音楽から着想を経て撮影するというスタイルも取られたという。
小学校時代の同級生だったというレオーネとモリコーネ
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そんなレオーネとの最後のタッグとなったのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)。禁酒法時代のニューヨークを舞台に、ユダヤ人街で育った2人のギャングの生涯を描いたこの作品では「Deborah's Theme」など優美なサウンドで作品に重厚感をもたらし、高い評価を得た。なお「商業音楽に魂を売った」とモリコーネを無視していたかつての学友が、この作品を見て、謝罪の手紙を書いたという。
6度目の正直!念願のオスカーをもたらした『ヘイトフル・エイト』
オスカーだけはなかなか手にすることができなかった
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『アンタッチャブル』(1987年)で獲得したグラミー賞ほか、英国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞など数々の栄誉を手にしてきたモリコーネが、なかなか手に入れることがかなわなかったのがアカデミー賞だ。
テレンス・マリック監督作『天国の日々』(1978年)で初めて作曲賞にノミネートされると、ローランド・ジョフィ監督の歴史大作『ミッション』(1986年)、『アンタッチャブル』、『バグジー』(1991年)、『マレーナ』(2000年)と度々ノミネートされるも惜しくも受賞を逃してきた。
特にアカデミー賞が確実視されていた『ミッション』で、『ラウンド・ミッドナイト』(1986年)のハービー・ハンコックに敗れた際には、原点である室内楽の作曲に一時戻るほどのショックを受けることに。
名誉賞受賞の際にはイーストウッドがオスカー像を手渡した
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多くの作品でモリコーネの楽曲を使うほどの大ファンだったタランティーノ
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その後、2007年の「第79回アカデミー賞」で名誉賞を受賞し、モリコーネの大ファンであるクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』(2015年)で、密室劇を盛り上げるダークで不気味なテイストの音楽を手がけ、ついに念願のアカデミー作曲賞を受賞。壇上でこれまでの喜びをかみしめるように佇む授賞式での姿は印象的だった。
生涯の友、ジュゼッペ・トルナトーレと出会った代表作『ニュー・シネマ・パラダイス』
このドキュメンタリーもトルナトーレだったからこそ実現した
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そんな彼のキャリアの中でも外せない1作が『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989年)だろう。当時は映画音楽と距離を置いていたモリコーネだったが、中年の映画監督が映画に魅せられた少年時代を回顧していくという脚本に引かれ、無名の新人ジュゼッペ・トルナトーレ監督に自ら電話し音楽を手がけると逆オファーをした。
美しくもどこか哀愁を感じさせる旋律は、映画音楽としても高い評価を獲得。彼の世界的な知名度を引き上げるとともに、次なるステップへの第1歩となった。
ほぼすべての作品でモリコーネとタッグを組んだトルナトーレ監督
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トルナトーレ監督とはその後も『海の上のピアニスト』(1999年)、『マレーナ』(2000年)など黄金コンビとして多くの名作を残すことに。そしてこのドキュメンタリーの監督をトルナトーレ監督が務めたのも、モリコーネ自身が「ジュゼッペ以外はダメだ」と指名したから。5年以上にわたる密着によってモリコーネのさまざまな一面が明らかにされている。
映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズもモリコーネの偉大さを語る
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モリコーネのトリビュートアルバムにはスプリングスティーンを筆頭にメタリカなど多くのミュージシャンが参加した
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『モリコーネ 映画が恋した音楽家』では、そんなトルナトーレ自身のほか、盟友レオーネ、タランティーノ、ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチら多くの映画監督から、ジョン・ウィリアムズ、ハンス・ジマーといった同業者、さらにブルース・スプリングスティーン、クインシー・ジョーンズといった彼を敬愛するミュージシャンらの言葉によって、モリコーネの生涯、そしてすごさが語られていく。
映画では偉大なマエストロにまつわる衝撃的な事実も飛び出していく
(C) 2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
芸術的地位の低さから映画音楽に抱いていた葛藤など、モリコーネの複雑な感情も明らかになる本作。美しい音楽とともに彼の偉大な足跡を追ってみてはいかがだろうか。
文=ケヴィン太郎
インフォメーション
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』
2023年1月13日(金)より全国ロードショー
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