防災

命の危険も…ヒートショックや低体温症など、冬ならではの健康被害から身を守ろう

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1月末から2月にかけては1年で最も気温が下がる時季。気温の低下や急激な寒暖差は、人の体にさまざまな健康被害をもたらします。ヒートショックや低体温症、低温やけどなどの危険なトラブルを防ぐには日頃からの対策が肝心。今回は医師の谷口英喜先生に、冬に起こりやすい健康被害の原因と予防法を教えていただきました。

気温差に注意! 命に関わるヒートショック

入浴中に突然容体が急変するなどして起こる「ヒートショック」は、めまいや失神のほか、時には心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすことも。厚生労働省の調査では入浴中の事故死は年間約19,000人とされており、特に冬に多く発生していることから、原因に「ヒートショック」が深く関わっていると考えられています。

「入浴中に限らず、急激な気温の変化は血圧に大きな変動をもたらします。通常、血圧は自律神経によってある程度一定に保たれていますが、極端な気温の変化にさらされると自律神経の調整がついていけず、血圧の急上昇や急低下を招いてしまいます。このような血圧の変動が原因で起こる健康被害がヒートショックです」(谷口先生)
例えば暖かいリビングから寒い脱衣所に移動すると、血管が収縮して血圧が上昇。この状態で急に熱い湯に入ると、逆に血管が一気に拡張して血圧は急低下します。特に、足の血管が拡張すると重力で血液は足に移動して心臓から脳への血流が減少するため、めまいや立ちくらみが起こり、入浴中では溺死の原因となることもあります。「ヒートショックでは血栓もできやすいため、心筋梗塞や脳梗塞の危険も高まります。特に動脈硬化がある方は注意が必要です。65歳以上の高齢者だけでなく、実は若い層でも気付かずに動脈硬化が進んでいる方もいるんです」(谷口先生)

動脈硬化の程度は、自分の血圧からある程度知ることができます。収縮期血圧(上の血圧)、拡張期血圧(下の血圧)を以下の計算式に当てはめてみましょう。

(収縮期血圧-拡張期血圧)÷3+拡張期血圧

例)収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧80mmHgの場合
(140-80)÷3+80=100

計算の結果が、65歳以上の方では95以上、64歳以下の方は90を超えると動脈硬化のサインです。食生活の見直しや軽い運動を取り入れるなどして改善に努めましょう。

ヒートショックを予防するためには動脈硬化の対策はもちろん、以下のようなことにも注意しましょう。

・入浴前後にしっかり水分補給を

体内の水分が不足すると血流が滞り、ヒートショックが起こりやすくなります。カフェインを含むお茶やコーヒー、アルコール類は利尿作用があるため常温の水や白湯がおすすめ。

・熱過ぎる温度のお風呂は避ける

寒い時季は風呂の温度を高めに設定しがちですが、熱過ぎるお湯は血圧の乱高下の原因に。ベストな温度は人間の体温と同じか、少し高い程度の37~40度。特に高齢者は熱さや寒さを感じにくいため、家族が注意を。

・サウナは無理をせず体調のいい時だけに

流行中のサウナですが、熱い空間と冷たい水風呂を行き来することは体への大きな負担に。そのため、ヒートショックによる事故も少なくありません。サウナ内では比較的温度が低めの下段に座り、水風呂は避けてぬるめ温度のシャワーを浴びるなど決して無理をしないこと。水分補給も心がけましょう。

屋内でも油断大敵! 低体温症の原因と予防法

冬山登山や被災下などでよくみられる低体温症ですが、実は寒い室内でも起こります。福島県の郡山地方広域消防組合がまとめたデータでは、低体温症で搬送された人の約7割は自宅での発症でした。 「寒冷環境での屋外スポーツ観戦など、何かに夢中になってずっと同じ姿勢を取り続けている時にも起こる可能性があります。特に子どもや高齢者は体温コントロールがうまく機能しにくいため、注意が必要です」(谷口先生)

恒温動物である人間は、体温を37度前後に保つ機能を持っていますが、寒冷の状態に長時間さらされると、この機能がうまく働かず体温が下がり続けた結果、低体温症を発症することもあります。体温が35度を切るとリスクは一気に高まり、症状が進むと歩行障害や意識の混濁が現れ、命に関わることも。「初期症状として、『シバリング』と呼ばれる震えが起こります。体が熱を産生しようと震えを起こすわけですが、症状が進むとシバリングが止まり体温が低下していきます。震えが起こった時点ですでに低体温症のサインだと自覚し、早めに対処しましょう」(谷口先生)

低体温症を予防するためには寒い環境にとどまる時間をなるべく短くすることはもちろん、重ね着などで肌の露出を減らしましょう。特に、太い血管が通る首元・手首・足首をしっかり隠して温めるのが効果的。またWHOでは、低体温症予防のため室温を18度以上に保つことを推奨しています。定期的に部屋の温度をチェックし、暖房器具を上手に活用しましょう。

防寒グッズは正しく使おう! 低温やけどの原因と対処法

熱湯や火などにさらされて起こる一般的なやけどと異なり、低い温度で発症する「低温やけど」。体温より少し高めの、約40~50度程度の防寒グッズや暖房器具などに皮膚が長時間接触することで起こります。「一般的な高温やけどの度合いはⅠ~Ⅲ度の3段階に分かれます。低温やけどの度合いの定義はありませんが、高温やけどと同じように考えてよいでしょう。低温やけどでは皮膚に赤みやかゆみが起こる(高温のⅠ度に相当)か、水ぶくれが起こる(高温のⅡ度に相当)レベルのやけどが多く見られます。カイロや湯たんぽ、こたつ、電気あんかなどは必ず正しく使用しましょう」(谷口先生)

低温やけどは自覚症状が現れにくく、気付いた時には皮膚の深部までダメージが広がっていることも。重症化するケースもあるため十分な注意が必要です。睡眠中は長時間同じ姿勢を取り続けているため、特に低温やけどのリスクが高まります。湯たんぽや電気あんかを使用する際は、長めの靴下を履くなどして素肌が直接触れないようにしましょう。また、カイロは必ず下着や衣服の上に貼りましょう。こたつに入る時も素足は禁物。長ズボンと靴下の着用が低温やけどの予防につながります。

冬ならではの健康被害は、年齢を問わず誰にでも起こり得ます。正しい知識と対処法で予防に努めましょう。

文=野宮ジュン

教えてくれたのは

谷口英喜先生

医師。済生会横浜市東部病院患者支援センター長。東京医療保健大学大学院医療栄養客員教授。 『いのちを守る水分補給』など著書多数。

 

 

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