【週末エンタメ】‟夫に寄り添う妻”の暗部を描いたサスペンス!新鋭オリビア・ワイルド監督が最新作に込めた社会的メッセージ
俳優として数多くのハリウッド映画やドラマへの出演を経て、長編監督デビュー作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)で高い評価を受けたオリビア・ワイルド。そんな彼女の監督最新作『ドント・ウォーリー・ダーリン』が2022年11月11日(金)から公開されている。
2作目にしてフローレンス・ピューや、ワイルドのパートナーでもある世界的歌手のハリー・スタイルズ、クリス・パインといった豪華なキャストたちを迎えた本作において、今後のハリウッドをけん引するフィルムメーカーの一人として大きな期待が寄せられる“ワイルドらしさ”をひもといていく。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』に出演もしているオリビア・ワイルド
(C) 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
2004年から出演したドラマ「The O.C.」(2003年〜2007年)で注目を集めると、謎めいたヒロインを演じた『トロン:レガシー』(2010年)をはじめ、『her/世界でひとつの彼女』(2013年)、『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)、『リチャード・ジュエル』(2019年)など数々の映画で癖のある女性を好演してきたワイルド。キリッとした顔立ちと知的な雰囲気を漂わせたたたずまいで、思わず目を奪われるような存在感を放ってきた。
ジャーナリストが多い家系に生まれた影響もあってか、役者として活躍するかたわら、ハイチの復興支援や、バラク・オバマの大統領選への支援、そしてフェミニスト活動など社会運動にも積極的に参加してきた。
最新作ではフローレンス・ピューとハリー・スタイルズが夫婦を演じる
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社会に対する意識の高さはワイルドの初監督作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』からも感じられる。この作品は、高校卒業前日に「遊び人だと思っていたクラスメートたちが実は超優秀だった」ということを知ったガリ勉女子高校生コンビが、学業で失った青春を一夜で取り戻すべくパーティーへと繰り出していく、ハチャメチャな卒業前夜を描いた学園コメディーだ。
前時代的な学園ものから脱却し、現代的にアップデートされた点が高く評価された本作。これまでの映画のように、キャラクターをスクールカーストのようなステレオタイプに当てはめることは一切なし。何不自由なさそうな金持ちや人気者、秀才、同性愛者…といったキャラクターたちが皆それなりに悩みを抱えており、それぞれが個人として公平に描かれていた。
また主人公2人をはじめとする女性キャラクターの描き方が現代的で、例えば、生徒会長のモリーの部屋にはミシェル・オバマのポスターやルース・ベイダー・ギンズバーグのポートレート、親友エイミーの部屋にも現在のフェミニズム運動から生まれた数々の標語がデザインされたポスターが飾られている。そんな彼女たちが少々悪いこともしながらも一夜を全力で楽しんでいく、女同士の友情が中心に据えられたエンパワーメントな内容だった。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』でもケイティ・シルバーマンが脚本を担当
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脚本を手掛けているのはケイティ・シルバーマンら4人の女性。このスタッフィングに関しても、公平性を期すため従来の映画業界的な経歴重視のレジュメ制度を廃止したそう。女性を主人公とした物語を語るにふさわしい人物を起用したことで、“女性らしさ”ではなく“自分らしさ”を大切にしようというメッセージ性のある、生き生きとした物語が作り上げられた。
「この街、何かおかしい…?」前作とは異なるアプローチで女性を描くサスペンス
主人公のアリスが完璧だがどこか奇妙な街の暗部に迫っていく
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前作に引き続きシルバーマンとタッグを組んだワイルド監督最新作『ドント・ウォーリー・ダーリン』は、理想郷のようでいて、どこか違和感を覚える街・ビクトリーを舞台にしたサイコサスペンス。
庭付きの一軒家、家族同士でのパーティーといった“幸せ”が保証された街で、夫・ジャック(ハリー・スタイルズ)と共に平穏な日々を送るアリス(フローレンス・ピュー)。しかし、ある日、隣人が赤い服を着た男たちに連れ去られるのを目撃して以降、体に不調を来し、周囲からおかしくなったと心配されながらも街の謎に迫っていく…。
カリフォルニアの砂漠の中にポツンと存在する理想郷ビクトリー
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本作の舞台となるビクトリーは「夫は働き、妻は専業主婦でなければならない」「パーティーには夫婦で参加しなければならない」などのルールが設けられており、「夫に寄り添う妻が良し」とされた古い価値観が根付いている1950年代的な街だ。
ビクトリーでは女性は専業主婦として家庭にいることが良き価値観とされている
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その暗部を主人公のアリスが浮き彫りにするというサスペンスの枠組みを生かしながら、家庭に閉じ込められた女性の解放が衝撃的な真実とともに描かれていく。前作『ブックスマート~』とは真逆の方向から、同じテーマを描いたワイルドらしい1作だ。
またワイルドは監督だけでなくアリスの隣人で友達のバニー役で出演もしている。街の古株として女性たちをまとめるボスという、どこかステレオタイプ的だが、同時に達観したような雰囲気を醸し出した重要なキャラクターを好演。物語に深みをもたらしている。
街の神的存在としてあがめられているフランクをクリス・パインが演じる
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エンタメの中にも、社会的なメッセージをしっかりと盛り込み、見る者の価値観を揺さぶるような、意識の高い作品を作り上げているワイルド。監督として、女性を主人公としたマーベル作品への起用も発表されており、今後も目が離せない存在だ。
文=ケヴィン太郎
インフォメーション
『ドント・ウォーリー・ダーリン』
2022年11月11日(金)より全国ロードショー
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